
ずいぶん前の事。
レストランでワインを少しこぼしてしまい
あわてて拭こうとした時、一緒に食事をしていた人が
「ちょっと待って」と言って
こぼれたワインを指先につけ、私の鼻の頭をちょんと触った。
きょとんとしている私に
「これはね、フランスの古いおまじないだよ」と言って
教えてくれた話。
ワインをこぼしてしまった時、
そばに居る人が、こぼれたワインを指に付け
鼻の頭に付けてくれると
素晴らしい幸運が訪れると言われているそうだ。
それはわざとこぼしたのではダメで
自分で鼻に付けてって頼んでもダメ。
うっかりこぼしちゃった時に、そばに居た人が気付いて
やってくれた時だけおまじないが効くのだそうだ。
きっとワインをこぼす無作法ををしてしまった人が
恥ずかしくならないように、
思いやりの気持ちから作られたおまじないなんだろう。
そんなおまじないで、気まずくなりそうなテーブルも
パッと明るくなるでしょう?
素敵な言い伝えだなって思った。
でもそれから少したった頃、本当に素晴らしい幸運が訪れた。
おまじないが効いたのか、偶然なのかはわからない。
私にそのおまじないを教えてくれた人は
今うちのお風呂場で、赤ワインに染まったラグマットを洗っている。
彼の鼻の頭の赤ワインは、もう乾いているはずだ。
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